scene
とある町のとある風景
その2
 

 

 

 

 


                                                     

 

ドアを開けると、廊下には紙テープが取り付けられていた。前を歩けないほどの色とりどりの紙テープに、一瞬何があったのかと驚いて、ドアを閉めた。

恐る恐る、ゆっくりと又ドアを開けた。

隣の部屋の友人も、ドア越しに廊下に顔を出している。「ハロウィンか・・・そうか・・・あいつら、いつの間に取り付けたんだ・・・見たかい・・・」見てないと答えると、そうかと言って友人は、笑みを浮かべた。

ハロウィンだって? 「そうさ、きょうはハロウィンだった」 そういえば、そのような行事があったっけなあ。聞いたことがあったのを思い出していた。

「誰の為に、こんなことをやったと思う? 」 友人は、紙テープを大げさに指差した。誰の為なんだい?

答えない彼に、あいつらって誰かと聞いてみた。今に分ると言って、付いて来いと手で合図をする。

紙テープを掻き分けながら廊下を進む。ドアを開けて、外から目に飛び込んできたのは、それぞれに変装をした、女友人達の姿であった。

輪を作り、芝生の上に腰をかけている。一見して、誰だと分るその姿は、滑稽であった。可笑しくなって、顔を見合わせて笑っていた。

笑っているこちらに気づいた友人が、立ち上がり大きく手を振った。皆も、彼女に釣られて、手を振る。奇声を上げる彼女達に、彼は「お尻を叩いて、お仕置きをするぞ」と、大きな声で叫んだ。「お仕置きをされるのは、どっちかしら」と、彼女達も負けてはいない。手におえない、交替しろと彼は後ずさりをする。

彼女達に、手を振ってみた。手を振って応えてくれる。「今夜、パーティーよ。来てね! 」 彼女に頷いて応えると、奇声を発する彼女達である。

勿論行くんだろう・・・「行く・・・俺達が行かなきゃ・・・洗礼だね」と、彼は胸を叩いて見せた。

洗礼って?  「ハロウィンの洗礼さ・・・君が受けるって訳よ」俺が?  何で俺がさ・・・「ハロウィンは、初めてなんだろう? 」

初めてだと答えると、「楽しいぞ」と、薄ら笑いを浮かべる。おい、おい、何が楽しいんだい。カボチャはどうするんだい?

「良いから、良いから」「お楽しみに」

 

来月結婚すると言っていた彼女が、「これ、フィアンセの写真よ」と、二枚を差し出した。手の平ほどの大きな写真には、彼と寄り添う彼女の幸せそうな姿が写っていた。幸せなんだね。「とっても幸せよ」彼女の笑顔が、光って見える。そうか、結婚するんだ・・・。

もう一枚の写真は、アップに写るフィアンセである。メガネをかけた、ちょび髭面に、おおっ! と驚きの声を発していた。友人達は、その写真を覗き込んでいる。

「彼は、ファミリーレストランの店長をしているの」 ふうん・・・ そう云えば、貫禄あるじゃないの・・・

優しそうな彼だね。「そうよ、とっても優しくしてくれるの」そう・・・良かったね。「彼も、ドイツ系の人なの」そう・・・ドイツ・・・

「結婚式には、皆来てくれるでしょ? 」 勿論だとも・・・ 友人達も、頷いていた。

「その写真、あなたにあげるわ」 俺に? 「そうよ。大切に持っていてね」分った、有難う。フレンドシップの証だと言って、ポケットに仕舞った。

「今から、ドライブに行かない? 」何処まで・・? 「とても、綺麗な町があるの」思い出を作っておきたい彼女の気持ちが、嬉しかった。よし、行こう。

町の名前を聞いても、何処の町だか分らないまま、彼女の車に乗り込んだ。きっと、綺麗な町なんだろう。

スポーツカーのエンジン音が、遠慮なく響き渡る。いつの間にか、ハイウェイに入っていた。

窓越しに流れて行く、見慣れた風景が遠ざかり、未だ見たこともない風景へと変る。北へ走っているのか、南へ走っているのか見当がつかない。「南よ、南へ向かって走っているのよ」ラジオからは、ポップスの軽やかなメロディーが流れてくる。皆は、黙ったままその歌に聞き入った。エンジンの音は、後ろから付いて来るような錯覚を覚える。車は、調子が良い。1時間ほど走って、ハイウェイを抜けていた。

遠くには、海が見えている。ヨーロッパ風の建物が並ぶ町へと入って行った。

車を駐車場に停めた彼女の後を、黙って付いて行く。海に沿って建物が並ぶ。建物に接する桟橋には、多くのボートやヨットが停留している。感じの良い町並みが続いていた。お店では、買い物をしている人達の姿が見える。

吊り下げられた観光客への案内板の下を潜り、桟橋を散歩した。「綺麗な夕日ね」

彼女は、落ちて行く夕日を見詰めて、呟くような声で言った。そうだね。皆も、夕日を眺めた。そうか、彼女が一番好きな風景なんだ。赤い夕焼けを受けながら、白いヨットが波間に揺れている。「あなたの国は、あの夕日の向こうにあるのね・・・・・・」「遠いわね」

いつか行ってみたいと言っていた、彼女の言葉を思い出していた。

 

中庭にはプールがあって、女性達の日光浴の格好の場所であった。いるいる・・・何時もの顔ぶれである。知らない振りして、通り過ぎようとしても駄目だった。「こっちに来いよ! 」親友が、大きな声で呼び止めた。寝転んでいた女性達までも、振り向く。「一緒に泳ごうぜ! 」と彼は、手を振って招く。

困ったもんだ。準備していないのに、泳ごうと言うのかい。溜息をついて、プールサイドへと近づいて行った。

「良い天気じゃないか。泳ごうぜ」 泳ごうって・・・トランクス持って来てないんだよ。「持ってるよ。来いよ」控え室へと、彼の後を付いて行った。

「さあ、これ」バッグの中から取り出して渡すと、「それじゃ、待ってるから」と言って彼は、さっさと部屋から出て行った。直ぐに着替えて、プールサイドへと出た。

「あら」「やあ、のんびり行こうぜ」 女性達から視線を受けるのは、苦手だよなあ。

このトランクスは、小さ過ぎるんじゃないの。「良いじゃないか、ぴったりだよ。似合っているぜ。いま流行りなんだよ」そうかい・・・やけに、女性達の視線を浴びるてるよな。彼のお目当ての女性の方へと、歩いて行った。

「噂は聞いているわ。あなたに会えて嬉しいわ、宜しくね」紹介されて握手を交わす。

このトランクスは、小さくないかい?  「うむん・・・ちょっとね」 ちょっとだけかい?    「そうね」

「気にしない、気にしない、フリーカントリーだよ。この国は、フリーカントリー」 彼の言葉に、近くの女性達から、またも視線を受ける。

「泳ぐぞ」恥ずかしくなって、思わずプールの中へと、飛び込んでいた。ふう・・・気持ちいいなあ・・・

「水の中だったら、恥ずかしくないだろう。もう少し泳いでいろよ」

全く、なんだよ・・・二人で寄り添ったりしてさ・・・知り合いの、女友達の輪の中へと入って行った。

 

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